【ブルーインパルス6番機】迫力あるロールオンテイクオフは危険?

ブルーインパルスの離陸シーンでひときわ観客を魅了する「ロールオンテイクオフ」。あの一瞬の華麗な動きの裏には、誰もが息をのむほどの緊張と危険が潜んでいます。パイロットたちは、その危険な課目に挑みながらも、完璧な演技を通して感動を届けています。

ロールオンテイクオフとは?

「ロールオンテイクオフ」は、離陸直後にギアとフラップを下げたまま機体をロールさせる、6番機の課目です。

普通のパイロットであれば「絶対にやらない」「ありえない」と断言するような機動であり、実は危険と隣り合わせの「シビれる」課目なのです。
だからこそ、観客の目には華麗で衝撃的な演技として映り、同じ空を飛ぶパイロット仲間からは「よくあんな危険なことをやるね」と驚きを持って見られます。

この課目はブルーインパルスの象徴的な離陸シーンのひとつであり、観客の心を一瞬で掴む最初のインパクトを生み出します。しかし、その裏側には命を懸けた高度な技術と緻密な判断力が要求されています。

伝統として受け継がれる危険な課目

ロールオンテイクオフは、何十年も前から受け継がれてきたブルーインパルス伝統の課目です。
ただし、その危険性と難しさから「ニッチでちょっと引かれる」存在でもあり、通常の飛行訓練や民間航空の常識からすればまったく別次元の世界です。

私自身も師匠であるチーターさんから、この課目の怖さと向き合う心得を繰り返し叩き込まれました。

  • 課目の危険性を常に理解し、油断を決して許さないこと。
  • 諸元(速度や高度などの条件)を正確に守り、クロスチェックを欠かさないこと。
  • 少しでも疑義を感じたら、迷わずアボート(中止)せよ。

初めてこの課目を後席で体験したときは、常識では考えられない機動と、地上の近さに驚きを隠せませんでした。

師匠からの教えは単なる技術ではなく「命を守るための哲学」でもあり、6番機のパイロットとして演技に挑むための絶対的な心得となっています。

なぜ危険なのか?

この課目が危険とされる理由は数多くあります。

  • ギアとフラップを下げた「ダーティー形態」で実施するため、機体には大きな抗力がかかり、加速が鈍く高度の上昇も遅くなる。
  • 離陸直後は速度が十分でないため、機体の反応が遅れがち。
  • 離陸直後という低高度での実施 → 失敗すればリカバリーの余地がなく即事故につながる。
  • パイロットの操作がわずかでも大きすぎれば(大きな円)、地面との距離を一瞬で失い重大な危険に直結。
  • 逆に恐れて小さすぎると(小さな円)、観客からは何をしているのか分からない中途半端な演技になってしまう。

つまり、「大胆さ」と「臆病さ」という相反する感覚を同時に持ちながら、ギリギリのバランスを取ることが求められるのです。

パイロットに求められる資質

6番機だけではありませんが、パイロットは以下の資質を求められます。

  • 「低高度で危険な演技をしている」という強い自覚を持ち続けること。
  • 「安全第一」を絶対の優先事項としながらも、観客に「感動」を届けることを忘れないこと。
  • 状況に応じて瞬時に冷静な判断を下す力。
  • 大胆に見せながらも心の奥底には常に臆病さを持ち、危険を恐れる感覚を失わないこと。

特に重要なのは「慣れ」による油断を絶対に排除することです。

経験を重ねるほど危険を忘れがちになりますが、それこそが最大の落とし穴。
パイロットは常に初心を忘れず、四苦八苦しながらも自らを律して挑まなければなりません。

パイロットの資質についてはこちらも参考にどうぞ。

安全最優先というもう一つの課目

ブルーインパルスのパイロットたちは、観客に少しでも喜んでもらいたいという強い思いを持っています。しかし、それ以上に大切なのは「安全」です。


少しでも天候が怪しいと判断されれば、展示飛行は中止となります。観客にとっては残念かもしれませんが、その判断こそがブルーインパルスの真のプロフェッショナリズムです。

空を飛ぶこと自体がリスクを伴う行為ですが、その中で安全を守る決断を下すことは簡単ではありません。それでも中止を選ぶ勇気は、長年受け継がれてきた伝統に裏打ちされた、もう一つの大切な「課目」なのです。

最後に

    ロールオンテイクオフの話題から少し逸れてしまいましたが、6番機としてフライトしていた頃の記憶を思い返してみました。

    この課目はわずか1秒判断が遅れるだけで最も危険な状況に陥る、極めてリスクの高い演技です。
    今度ロールオンテイクオフを見るときは、6番機パイロットが瞬間で緻密な判断をしているのだと想像してみてください。

    そして、無線機を持っている方はぜひ「6番機のボイス」にも耳を傾けてみてください。

    「ゥロ~ルオン、レツゴ!」 

    気合と伝統が詰まっています!