【前編】絶対に諦めなかった空への情熱 ― 航空カメラマン黒澤英介さんの原点

今回は、私が長年お付き合いさせていただいている航空カメラマン、黒澤英介さんについて書きたいと思います。

黒澤さんは、長年ブルーを撮り続けてきた航空カメラマンの一人です。

私自身、ブルーの現場にいた立場から言わせてもらうと、
信頼や実績はもちろん、人柄の温かさも含めて、とても魅力のある方です。

安全意識、現場理解、人としての距離感。
それらを自然に備えている人だからこそ、長く信頼され続けているのだと思います。

今回は、そんな黒澤さんの原点について書いてみます。

原点は、T-2ブルーとの出会い

黒澤さんが航空機に強く惹かれたのは、子どもの頃に出会ったT-2ブルーインパルスでした。

青と白の機体が編隊を組み、空に軌跡を描く姿。
その光景に心を奪われ、「いつかブルーインパルスに関わりたい」と思ったそうです。

高校卒業後の夢は「航空自衛隊でブルーインパルスの整備員になること」

そう強く思い、夢に向かって歩き続けました。

このT-2ブルーの写真、高校2年生の時に撮影されたそうです。
当時とは思えないほど、すでに卓越したセンスを感じますね。

夢が閉ざされた瞬間

しかし、高校3年生の入隊説明会の場で、その夢は現実の壁にぶつかります。

幼少期の事故で左目を失明していたことが理由で、整備員としてブルーに関わることは難しいと告げられたのです。

突然、進むはずだった未来が閉ざされる。
これは想像以上に大きな出来事だったはずです。

それでも黒澤さんは、空への想いを手放しませんでした。

別の形でブルーに関わればいい

黒澤さんはこう考えたそうです。

「整備員になれないなら、カメラマンとしてブルーに近づけばいい」

この発想の転換は簡単そうに見えて、実はとても強い意志が必要です。
夢を諦めたのではなく、形を変えて追い続ける選択。

ここに、黒澤さんの人となりが表れているように感じます。

空撮許可までの道のり ― 空幕とのやり取りと積み重ねた信頼

航空機、とくにブルーインパルスの空撮というのは、決して簡単に実現できるものではありません。

安全性への理解、撮影実績、そして現場との信頼関係。それらが揃って初めて検討される、非常に慎重な世界です。

黒澤さんも活動初期の頃、航空幕僚監部(空幕)を訪れ、空撮への想いを直接伝えたそうです。

「僕はブルーインパルスの空撮がしたいです!お願いします!」

その時、広報室で担当されていたのが、T-2ブルー出身の東福さんでした。

「気持ちは分かる。でも、まだ実績が足りない。若いんだから、まず経験を積みなさい。頑張れば、いつか許可が出るかもしれないよ。」

それでも黒澤さんは食い下がります。

「今ではダメですか?情熱は誰にも負けません!」

「その思いを忘れず、これからも頑張れ。」

今では日本を代表する航空カメラマンとなった黒澤さんですが、その裏には、こうした泥臭い経験と積み重ねがありました。

すぐに道が開けたわけではありません。それでも地道に撮影を続け、経験を重ね、現場との信頼関係を少しずつ築いていきました。

そして、その努力の先に、ようやく空撮の機会が訪れます。

空幕から、その実績と情熱が認められ、空撮の許可が下りたのです。

空撮で大切なのは「安全」と「地上準備」

黒澤さんの話を聞いていて印象的なのは、空撮で大切なのは写真の出来以上に
「安全」と「地上準備だという点です。

  • 事前のブリーフィングで飛行内容をしっかり理解すること。
  • 機体の動きや撮影のタイミング、イメージを把握しておくこと。
  • コックピット内での動線や機体への配慮を忘れないこと。
  • そして何より、パイロットの業務を妨げないよう安全に最大限配慮すること。

事前に打ち合わせを重ね、イメージしている絵柄をメンバーとしっかり共有できた時点で、空撮の8割はほぼ完了している。黒澤さんはそう話されています。

残る2割は、当日の天候や光の条件、そして体調といった要素に左右される部分。だからこそ、不安要素はできる限り地上の段階で減らしておくことが重要だという考え方です。

天候、光の状態、飛行ルート、フォーメーション、撮影ポジション。こうした要素を事前に丁寧に整理しておくことで、空の限られた一瞬に集中することができる。

その積み重ねこそが、多くの人を魅了する航空写真につながっているのだと思います。

夢の形は変わっても、想いは変わらない

整備員になりたかった少年が、現実に直面し、別の形で空に関わる道を選び、今では多くの人にブルーの魅力を届けている。

夢の形は変わっても、空への想いは変わらなかった。

黒澤さんの歩みは、それを静かに教えてくれます。

次回は現場での黒澤さんを書きます

次回は、実際にカメラシップとして一緒に飛んだ日のエピソードも含めて、パイロットの視点から見た航空カメラマンという存在をお伝えできればと思っています。

※黒澤さんご本人のご承諾をいただき掲載しています。