【ブルーインパルスへの挑戦】第7話:憧れのアクロバット飛行と涙の合格発表

三次試験の最終日。
そこでは、憧れだった「アクロバット飛行」を体験させていただけることに。

「不安なのか、ワクワクなのか、もう感情のコントロールができない!」

そんな胸の高鳴りと共に、私は人生で最も濃く、そして忘れがたいフライトへと歩み出したのでした。

アクロバット飛行開始!

最初に行われたのは「ループ」

「準備はいいかな?」

「はい!」

じゃあいくね、よいしょ」

機体が勢いよく上昇しはじめる。Gで頭が肩に埋もれていく…

「これが…G!すごい!」

頂点でくるりと反転してから、滑るように降下しく。

重力が身体全体に圧し掛かり、心臓の鼓動までもが重く響きました。

「ループコンプリート。大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です!」

「どんな感じ?」

えー… すごいです!」

もう、凄いとしか言えない高校3年生。何回も酔って、もう乗りたくないと思っていた自分はどこにいったのか。

続いては、「エルロンロール」

「じゃあ次はエルロンロールやるね」

「はい、お願いします!」

「よいしょ!」

機体が横方向に回転し、水平線がぐるりと視界を駆け巡っていきます。

「エルロンロール、コンプリート」

なんという感覚…これは地上では絶対に味わえない世界。

夢を見ているのか? こんな世界が現実に存在するのか?

「もう一回やるよ

「よいしょ!」

また、水平線がぐるぐると一瞬で回る。

「すごすぎる」

しかし、感動も束の間、再び身体の奥底からあの“いやな感覚”がじわじわと広がってきました。

「ほかのアクロもやってみる?」

「すいません…やはり、酔ってしまいました」

「ははは、大丈夫だよ。よく頑張ったね」

最後まで飛び続けることはできず、また誰よりも早い着陸となりました。

地上に戻ってからは、毎日根気よく教えてくださった教官の皆さまに、深く頭を下げて感謝の言葉をお伝えしました。

振り返れば、4回の適性フライトのうち3回もエアシックに苦しみ、思い通りの操縦ができたとは到底言えません。

悔いは残っている。けれど、不思議と心は澄みきっていて、感謝の気持ちとともに、「もうなるようになるさ」という前向きで穏やかな覚悟が心を満たしていました。

人生で最も有意義な二日間

人生でこれほどまでに感情が揺さぶられた時間があっただろうか。そんな思いを抱かずにはいられない、まさに特別な二日間でした。

飛行機酔いに苦しみながらも、空を愛する気持ちは決して揺らがなかった。

「やっぱり、空が好きだ」

そんな思いを胸に、私は防府北基地をあとにし、鹿児島への帰路につきました。

帰りの電車の窓から見えた空は、どこまでも澄んでいて、この二日間で経験したすべてが青春のひと欠片として、心に深く刻み込まれていきました。

ついに届いた合格通知

地元に戻ってからの日々は、バンド活動に全力を注ぎながらも、心のどこかでいつも合格通知のことが気にかかっていました。

「今日こそ届いているかもしれない…」

そんな淡い期待を胸に、毎朝目覚めるとポストまでの数歩を急ぎ、帰宅のたびにも何度も覗き込む、そんな日々が自然と日課のようになっていました。

そんなある日、待ち続けていた合格通知が、ついに我が家に届いたのです。

最初に気づいたのは父でした。

「おい、来とるぞ」

その声に、一瞬、時が止まったように感じました。私はすぐさま立ち上がり、郵便物を手に取りました。

薄くて軽い、その一枚の封筒。まるで世界のすべてが、そこに詰まっているかのように、手のひらの中で震えておりました。

家族がリビングに集まり、みんなそれぞれ緊張した表情を浮かべていました。

私はゆっくりと息を整えながら、その封を切りました。

「もう、自分にできることは全部やった。どんな結果でも、受け止めよう」

そう心の中で何度も言い聞かせながら、紙面に目を落とした瞬間、

「合格」

そこには、はっきりと「合格」の文字が印字されていました。

目を見開き、一瞬、呼吸を忘れました。

「合格、した?」

父が思わず拳を握りしめてガッツポーズ。

母は両手で口元を押さえながら、静かに涙を流していました。

私はと言えば、まだその現実を受け止めきれず、まるで夢を見ているかのように、ただ呆然と…

「本当に、俺が…」

あれほどやんちゃで、怒られてばかりだった私が、まさか本当に航空自衛隊の空の世界に足を踏み入れる日が来るなんて

その日の夕飯は、母が作ってくれた大好きなすき焼き。家族で囲んだあの時間が、今でも胸の奥にあたたかく残っています。

心からの感謝と、未来への誓い

ここまで来られたのは、自分一人の力ではありません。

毎日背中を押してくれた家族、励ましてくれた友人たち、そして、信じて見守ってくださった先生方。
そのひとつひとつの支えが、いまの自分をここに立たせてくれているのだと、あらためて胸が熱くなりました。

未来がどうなるのかなんて、まだまったくわかりません。でも、あの日、私は静かに心に誓いました。

「誰にも負けない努力をしよう。根拠なんてなくても、自分ならきっとできる」

その気持ちはあれからずっと、今も胸の奥で静かに、確かに生き続けています。

次回予告

かつてはどうしようもない落ちこぼれだった自分が、まさか航空学生の試験に合格するなんて。

夢の知らせを手にしたあとは、高校生活のラストスパート。情熱を注いだバンド活動の集大成として、3月の卒業ライブへと全力を注ぎます。

そして、家族や仲間に見送られながら、いよいよ地元・鹿児島を旅立つときがやってきます。

次回は、18年間育ったふるさとに別れを告げ、未来への第一歩を踏み出す、希望と少しの切なさが入り混じった「最終話」をお届けします。

人生の師|塩沼亮潤大阿闍梨

学校や仕事がつらく感じたり、何をしても続かない自分に落ち込んでしまう…
そんな気持ちに押しつぶされそうなとき、ぜひ手に取ってほしいのが、塩沼亮潤大阿闍梨の『人生生涯小僧のこころ』です。

千日回峰行。
往復48キロ、高低差1,300mの山道を毎日、16時間かけて9年間歩き続ける。

そんな常人離れした修行を成し遂げた塩沼亮潤大阿闍梨。
さらにその後、9日間一切の「食べる・飲む・寝る・横になる」を絶つ“四無行”まで完遂。

…と聞くと、「自分とはまったく別世界の超人の話?」と思うかもしれません。
でも実際に宮城県に存在している生き仏のようなお坊様です!

奈良県の金峯山寺で、この千日回峰行という過酷な行を成し遂げた方は、実に1300年の歴史の中でたったの二人しかいません。

想像を絶する偉業ですが、塩沼亮潤大阿闍梨のお人柄やお言葉は、そんな偉業とは対照的に、とても穏やかで、優しく、心の奥に静かに響くものばかりです。

「現実を受け入れて、愚痴を言わず、今を精いっぱい生きることで、自然と道は開ける。」
そんな素朴で力強いメッセージが、心にそっと寄り添ってくれます。

私自身、ブルーインパルス時代にご縁をいただいて以来、今も変わらずお付き合いをさせていただいている、大切な人生の師です。

読むだけで元気と活力が湧いてくる、そんな一冊。ぜひ、多くの方に手に取っていただきたいと、心から思います。

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