【後編】想像以上に過酷な空撮 ― 黒澤英介さんと飛んだ特別な一日

前編では、航空カメラマン黒澤英介さんが空に惹かれた原点について書きました。

今回は、その想いが実際の現場でどのように形になっているのか――ブルーインパルスの現場で私自身が感じてきた黒澤さんの姿、そしてカメラシップとして実際に一緒に飛んだ日の体験を通してお伝えしたいと思います。

黒澤さんとの空撮 ― それは私のラストフライトの日だった

2014年10月17日、黒澤さんとの空撮の日。

この日は、偶然にも――
私のブルーインパルスとしての最後のフライトの日でした。

朝一番、いわゆる“ファースト”と呼ばれるフライトで黒澤さんと空撮。
そして、お昼前の“セカンド”が、私自身のラストフライト。

松島基地の空は、ところどころ雲はあるものの、問題ない青空。
「やっぱり日頃の行いかな」と思いましたが、あれはきっと黒澤さんの行いの良さですね笑

そんな特別な一日の始まりでした。

入念なブリーフィングからすべてが始まる

空撮は、飛ぶ前の準備がすべてと言っても過言ではありません。
今回のフライトでも、まず徹底的にブリーフィングを行いました。

今回の空撮の目的は何か。
どんな写真を撮りたいのか。
どの位置から狙うのか。

黒澤さんからは具体的なリクエストが出ますが、安全上難しいものについてはパイロットとして、はっきり「無理」と伝えます。

とはいえ黒澤さん自身、
「ここは難しいだろう」というポジションをよく理解されている。
その現場感覚の鋭さには、驚かされます。

そして何より重要なのは安全です。
いくら百戦錬磨の航空カメラマンとはいえ、同乗される以上、安全確保は絶対条件。

安全に関するブリーフィングは、正直しつこいくらい行います。
それくらいでちょうどいい世界です。

カメラシップとして離陸

今回のミッションは、松島基地でのデルタループの撮影がメイン。

私たちは7番機、いわゆるカメラシップとして通常仕様のT-4で離陸しました。

【松島への帰還】シリーズでも書きましたが、ブルーインパルスの機体はアクロ専用にカスタムされており、非常に機動性が高い仕様です。

一方、今回の機体はノーマルT-4。
つまりアクロ仕様ではありません。

この差は想像以上に大きく、高機動を行うブルーについていくだけでも、かなり神経を使います。

本番に入る前に

離陸後は、高高度から俯瞰での撮影を行いました。
メインのデルタループ空撮の前に、私と黒澤さんだけ先に高度を上げ、ロールオンテイクオフやデルタ360などの課目を行うブルーインパルスを上空から撮影しました。

そのときに撮影した写真がこちらです。

天候にも恵まれ、松島の美しい風景や海岸線、そして空に描かれるスモークがとても鮮やかに写っています。

何よりも、1年間かけて6番機伝統の技を教え、独り立ちした弟子・ローバーのフライトを、こうして上空から見守ることができたこと。とても感慨深い瞬間でした。

そして、この後いよいよ本番の空撮に入ります。

デルタループ空撮、その瞬間

「1スモーク、デルタループ、レッツゴー」

6機が一斉にGをかけてダイナミックに上昇していきます。

私たちは4番機の下後方から追随しました。

単純に考えれば、これ以上ない特等席。
しかし実際は、安全を確保しながらループの下をぴったり追い続けるのは簡単ではありません。

頂点付近では、6機との距離が少し離れてしまいました。

デルタループを終え、後席の黒澤さんに確認します。

「黒澤さん、今のは少し遠くなってしまいました。もう一度いきますよね?」

すると黒澤さんは、

「今のでも大丈夫ですが、もし可能ならもう一度お願いしてもいいですか?」

と、とても謙虚なリクエスト。

その一言で、こちらの闘志も一気に高まりました。

2回目のデルタループ

さあ、もう一度チャレンジ。

「1スモーク、デルタループ、レッツゴー」

1回目のズレを修正するように操作を微調整。
安全を確保しながら、頂点付近で理想に近いポジションをキープできました。

「今度はどうですか?」

「完璧です!ありがとうございます!」

その言葉を聞いた瞬間、今日の目的をしっかり果たせたという安堵感が広がりました。

空撮は想像以上に過酷な世界

後席の黒澤さんは、ただシャッターを押しているわけではありません。

光の入り方や構図を意識するのはもちろん、キャノピーを傷つけない配慮、操縦系統への注意、そして何よりパイロットの業務を妨げないよう細心の注意を払って撮影されています。

体重の何倍ものGがかかりながらカメラを構えるだけでも必死なのに、安全に配慮しながらあれだけの完璧な空撮を成し遂げるのは至難の業です。しかも常に謙虚。

その姿勢を見るたびに、技術だけでなく安全意識と現場理解の高さを感じます。
まさにプロフェッショナルだと思います。

新田原展開でのもう一つのフライト

別の機会には、新田原基地航空祭への展開フライトで同乗したこともありました。

この時のテーマは富士山。
天候にも恵まれ、空気も澄み、最高のコンディションで素晴らしい写真が撮れました。

こうした一つ一つのフライトの積み重ねが、黒澤さんの作品を支えているのだと思います。

謙虚さと情熱、そのギャップ

黒澤さんは非常に謙虚な方です。
物腰は柔らかく、決して前に出るタイプではありません。

しかし、その人柄とは対照的に、作品には強いエネルギーと挑戦心が感じられます。

このギャップこそが、多くの人を惹きつける理由なのだと思います。

若々しく、あくなき挑戦を続ける黒澤英介さん。
これからどんな空を切り取っていくのか、私自身とても楽しみにしています。

最後に

空を飛ぶ側と、空を撮る側。
立場は違っても、そこにある想いは同じです。

前編で触れた黒澤さんの原点が、こうした現場での姿に繋がっているのだと、あの日あらためて感じました。黒澤さんと一緒に空を共有したあの日、「空は一人ではつくれない」ということを強く実感しました。

ブルーインパルスの空も、航空の世界そのものも、多くの人の想いと支えによって成り立っています。

写真という形で空の魅力を伝え続ける黒澤英介さん。その作品をこれからも楽しみにしながら、私自身もまた、自分なりの形で空の魅力を伝えていきたいと思います。

※黒澤さんご本人のご承諾をいただき掲載しています。
※掲載している写真の転載・無断使用はご遠慮ください。